頭痛と脳脊髄液減少症

 

外科外来に、五十歳代の男性が頭痛と訴えて来院されました。

一見して企業戦士といったいでたちで「ある日を堺に急に頭痛がし、めまいもある。ひどい時は吐いてしまう。集中力がなく、頭痛のせいで寝込んでおり、仕事は休んでいる」とのことでした。

気共鳴画像装置(MRI)で脳の検査を行ったところ、両側頭頂部に薄い血の塊がありました。

手術するほどではないので自宅での安静を指示しましたが、数日後またひどい頭痛がするといって来院されました。入院してもらって詳しい検査をしましたが、結果は異常なし。再度、患者さんに詳しく病歴を聞くと、「立っているとつらくて、横になれば楽になる。耳鳴りもあるしh、最近なんとなく耳の聞こえも悪い」と答えられ、さらに「症状は悪天候のときがひどい。十数年前には交通事故でむち打ちになった経験もある」とも。そこで思い浮かんだのが、最近少しずつ話題になっている「脳脊髄(せきずい)」の可能性です。

と脊髄は硬膜、くも膜、軟膜に包まれています。くも膜と軟膜の間には髄液が流れていて、外からの衝撃から脳と脊髄を守っています。頭の中で、脳は髄液に浮かんだ状態で、神経や血管などで支えられています。交通事故による衝撃など、何らかの原因で髄液が漏出して減少すると、頭の中での浮力が失われるとともに、脳がペシャンコになり、脳をつなぎ留めている神経や血管が引っ張られ、頭痛や吐き気、めまいや視力障害などさまざまば症状が起きます。これが脳脊髄液減少症です。

の後の検査で、この患者さんには、首と腰の二ヵ所で髄液の漏れが見つかりました。このため、患者さん自身の血液を髄液が漏れているところに注入し、血液を凝固させて漏れた部分をふさぐ「ブラッドパッチ」という治療を行いました。翌日には症状がとれ、すっきりとした表情で退院されました。

れが脳脊髄液減少症との始めての出合いでしたが、この病気が最近注目されている理由は、従来考えていたよりも、はるかに発生頻度が高いためです。髄液の漏出は、日常生活の何気ない動作によっても起こる可能性があります。

た、罹病(りびょう)期間の長い頚椎(けいつい)ねんざ、いわゆるむち打ち症の患者さんの中に、前述したような頭痛や吐き気などの症状を訴えられるケースがあるのですが、原因が正しく診断されず、精神的なものとか外傷後ストレス障害などとされ、坑うつ薬や痛み止めを大量に処方されていた方もいます。この中には、実は脳脊髄液減少症だった患者さんが含まれていることが分かってきており、むち打ち症に伴う頭痛などの症状が脳脊髄液減少症によるものである場合、ブラッドパッチで症状が劇的に改善する事が明らかになってきた点も、この病気への注目が高まっている理由のひとつです。

ち打ち症で悩まれている患者さんには朗報だと思います。病院を受診する際は、既往症も含め正確な情報を意思に伝えましょう。

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